大判例

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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)2943号 判決

原告

昭和飛行機工業株式会社

右代表者代表取締役

野田秀助

右訴訟代理人弁護士

宍道進

右訴訟代理人補佐人弁理士

高橋登

被告

常磐電気株式会社

右代表者代表取締役

皿谷勝

右訴訟代理人弁護士

山田靖彦

右訴訟代理人補佐人弁理士

鈴江武彦

主文

原告の請求は、棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、「一 被告は、別紙目録(二)記載の管接手を製造し、譲渡し、貸し渡し、又は譲渡若しくは貸し渡しのために展示してはならない。二 被告は、その肩書住所において占有する前項掲記の管接手を廃棄せよ。三 被告は、原告に対し金二十九万百三十円及びこれに対する昭和三十八年四月二十六日から右支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。四 訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求めた。

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。

第二  当事者の主張

(請求の原因)

原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり述べた。

一  原告の実用新案権

原告は、次の実用新案権(以下、本件実用新案権という。)につき、現にその二分の一の持分権を有する。

名  称 管接手

出  願 昭和二十九年十月九日

出願公告 昭和三十一年五月十八日

登  録 昭和三十二年二月十五日

登録番号 第四五七、五七七号

原告は、早乙女増雄及び前沢昊より同人らの考案にかかる管接手につき実用新案登録を受ける権利を譲り受け、前記のとおり出願、出願公告、登録の過程を経て本件実用新案権を取得したが、昭和三十五年八月十五日、本件実用新案権の二分の一の権利を三和バルブ製造株式会社に譲渡し、爾来、同会社とともに、本件実用新案権を、二分の一ずつ共有しているものである。

二  登録請求の範囲

本件実用新案の願書に添付した説明書の登録請求の範囲の記載は、別紙目録(一)の該当欄記載のとおりである。≪以下省略≫

理由

(争いのない事実)

一  原告が本件実用新案権の持分二分の一の権利者であること、本件実用新案の出願願書に添付された説明書の登録請求の範囲の記載が、原告主張のとおりであること及び被告が別紙目録記載の構造の管接手を製造、販売していることは、当事者間に争いがない。

(本件実用新案の要部)

二 前記当事者間に争いのない本件実用新案の登録請求の範囲の記載に、成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案公報)の記載並びに鑑定人佐々木清隆及び同福田進の各鑑定の結果を参酌すると、本件実用新案は、接手の一部であるブラツグの着脱により、自動的に通路を開閉する管接手の構造に関するものであり、その構造において、

(一)  一方の接手部材の内部に、バルブ柄を有するバルブを撥条で支持して収納すること

(二)  接手部材の外筒に、バルブ柄の貫通孔を穿つたパツキングを当てるとともに、接手部材の外筒に筒管を螺着して筒管の内側の鍔縁で右パツキングを押えること。

(三)  内側面に傾斜面よりなる凹溝を有する鞘管を撥条を介在させて摺動自在に備えていること、

(四)  鞘管の凹溝と、ブラツグに設けた凹溝との間に、鋼球を出入しうべく挾持させたこと

を、その要部とし、このような構造により、

(一)  鞘管を移動させるだけで、ブラツグを容易に着脱できること、

(二)  パツキングは、バルブの開閉時に当り、通路を閉鎖するときはパツキングとバルブの座と密接し、通路を開放するときはブラツグの先端をパツキング面に気密に触れさせるため、パツキングの表裏いずれかの面は密封作用を呈して流体の漏洩することがないこと、

という作用効果を有することを認めうべく、これと見解を異にする甲第四号証(弁理士渡辺卓治の鑑定書)及び同第五号証(弁理士沼田新助の鑑定書)記載の各意見は、いずれも当裁判所のにわかに賛同し難いところであり、他に、右認定を左右するに足る適確な証拠はない。

原告は、バルブがバルブ柄を有すること及び鍔縁を接手部材の内部に設けないで接手部材の外筒に筒管を螺着し、筒管の内側に鍔縁を設けることは、いずれも本件実用新案の要部を構成するのではなく、附加的構造にすぎない旨主張する。しかしながら、前掲甲第二号証(本件実用新案公報)中の「実用新案の性質、作用及効果の要領」の項の第一文には、その構造に関し、「一方の接手部材1内に螺縁撥条3にて反撥支持せしめて扁平板状のバルブ柄14を有するバルブ5を収納してバルブ柄の貫通孔を穿てるパツキング4を当て、接手部材1に筒管2を螺着し、環状凹溝15を設けたる筒管内側の鍔縁16にてパツキング4を押へ」(同項左欄四行目から六行目)と記載され、同項の第二文には、本件実用新案の作用効果として、「パツキング4はバルブ5の開閉時に当り進路を閉鎖するときはパツキングとバルブの座と密接し、開放する場合はブラツグ7の先端をパツキング面に気密に触れしめ表裏何れかの面は密封作用を呈し流体の漏洩する憂がない」(同項右欄十二行目から十七行目)と記載され、また、同項第一文には、前掲パツキング、バルブ、バルブ柄、鍔縁が他の構造との関係において果す機能について「バルブ5の座とパツキングとを密着せしめ得ると同時に鍔縁16とパツキング4との接触部を気密に密封し……(中略)……ブラツグ7を鞘管9内鋼球逃口に鋼球10を没入せしめたる状態にて筒管2内に押込み撥条12により鞘管9を正規の位置に戻すときは……(中略)……其先端にてバルブ柄14を左方に移動せしめて同時ブラツグ7の先端をパツキング4の面に当て気密に密封しバルブ5を第2図に示す如く開き扁平バルブ柄14とパツキング4の透孔間隙6を通して空気又は液を流出し得べく構成する」との記載(同項左欄九行目から右欄六行目)があり、これらの記載をあわせ考えると、本件実用新案は、パツキング4の両面を利用し、流体の通路を閉鎖するとき、すなわち、ブラツグ7を筒管2内から取りはずしたときは、撥条3の反撥力により、バルブ5の座とパツキング4の接手部材側側面とを密着し、通路を開放するとき、すなわち、ブラツグ7を筒管2内に押し込んだときは、ブラツグ7の先端とパツキング4のブラツグ側側面とを密接し、流体の漏洩を防止することをその考案の一目的とし、右機能を果すためには、パツキングをブラツグ4受体側に固定することを要するところ(叙上のように、パツキング4は、通路の開閉にあたり、常に一方向のみの押圧力を受けるので、これを固定しなければパツキング4そのものが移動して、前記密接作用を行いえないことは、その構造上から見て、明らかである。)、接手部材1の外筒に筒管2を螺着し、筒管2の内側に鍔縁16を設けて、接手部材1の外筒にあてたパツキング4を右鍔縁で押える機構は、まさしくパツキング4をブラツグ受体内に固定する機構にほかならず、本件実用新案を構成する要部といわざるをえない。また、バルブ柄14は、固定されたパツキング4にバルブ5の座とブラツグ7の先端が交互に密接、あるいは離脱して通路を開閉するにあたり、ブラツグ7が筒管2内に押し込まれたとき、すなわち通路を開放するときは、撥条3の反撥力に抗してバルブ5の座を接手部材側に移動せしめてパツキング4と離脱させ、パツキング4の貫通孔とバルブ柄14との間に流体の通路である透孔間隙6を生ぜしめるために必要な機構(ブラツグ7の動きをパルプ5に伝えるのは、バルブ柄14のみであることは、前掲甲第二号証により明らかである。)であるから、これまた、本件実用新案を構成する要部といわざるをえない。

以上説示のとおりであるから、原告の前示主張は、理由がないものというほかはない。また、原告は、本件実用新案の登録請求の範囲にいわゆる「傾斜面よりなる凹溝11」とは傾斜面を形成した隆起を突設する機構である旨主張するが、前掲甲第二号証中の「実新案の性質、作用及効果の要領」の項には、その構造に関し「鞘管9には内側に鋼球10の逃口たるべき凹溝11を備へ」(同項左欄十二行目から十三行目)と記載されていること、同号証中の図面にも、凹部が傾斜面を形成し、その両側に壁部の存在する機構が示されていること、反面、同号証中に隆起を突設するという表現は見当らないこと等をあわせ考えると、本件実用新案の要部の確定について、「傾斜面よりなる凹溝11」とは、すなわち「傾斜面を形成した隆起を突設する機構」であるとは直ちにいいがたく(両者が構造として均等であるどうかは暫く措く。)したがつて、原告の前示主張も、また理由がないといわざるをえない。

(本件物件の特徴)

三 別紙目録(二)記載の図面及び説明書並びに前掲佐々木清隆及び同福田進の各鑑定の結果をあわせ考えると、本件物件も、接手の一部であるブラツグの着脱により、自動的に通路を開閉する管接手の構造に関するものであり、

(一)  一方の接手部材及びブラツグの各内部に、パツキングを円錘形をした先端の根部に嵌着したバルブを板撥条及び撥条で支持して収納すること。

(二)  接手部材の内部の両端開口した空洞のほぼ中央部及びブラツグの内部の左端開口部にそれぞれ傾斜面のあるバルブ座を一体に突出形成したこと、

(三)  内側面に傾斜面を形成した隆起を突設した鞘管を、撥条を介在させて摺動自在に備えていること。

(四)  鞘管の隆起部と、ブラツグに設けた凹溝との間に、鋼球を出入しうべく挾持させたこと、

をその構造上の特徴とするものであることを、認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(本件物件は、本件実用新案の技術的範囲に属するか)

四 本件物件は、次に説示するとおり、その構造において、本件実用新案の要部の一を欠き、その作用効果においても、本件実用新案のそれの一を有していないから、他の要部を具備するかどうか、又は、その他の作用効果の異同について判断するまでもなく、本件物件は、本件実用新案の技術的範囲に属するものとはいいえないものといわざるをえない。すなわち、本件実用新案は、一方の接手部材1の内部にバルブ柄14を有するバルブ5を撥条3で支持して収納し、接手部材1の外筒にバルブ柄14の貫通孔を穿つたパツキング4をあてるとともに、接手部材1の外筒に筒管2を螺着して筒管の内側の鍔縁16でパツキング4を押えることをその要部の一とし、これにより、他の構成部分とあい俟ち流体の通路の開閉にあたりパツキング4の表裏いずれかの面は密封作用を呈して流体の漏洩する憂いがない、という作用効果を有することは前説示のとおりである〓〓〓、本件物件のこれに対応する部分の構造が、接手部材1+2、及びブラツグ7の各内部パツキング4、4を円錘形をした先端の根部に嵌着したバルブ5、5を板撥条17、17及び撥条3、3で支持して収納し、接手部材1の内部の両端開口した空洞のほぼ中央部及びブラツグ7の内部の左端開口部に、それぞれ傾斜面のあるバルブ座16、19を一体に突出形成したものであることも、また前説示のところであり、右の構造に前掲佐々木清隆、同福田進の鑑定の結果を参酌すると、本件物件は、他の構成部分の機能を考慮しても、流体の通路の開閉にあたり、閉鎖するときはパツキング4がバルブ座16(これが本件実用新案の鍔縁に該当することは、その構造自体から明らかである。)の傾斜面に圧接されて密封作用を行うが、開放するときは、パツキング4は、バルブ5とともに、接手部材側に移動してバルブ16度と離脱するのみで、密封作用とは無関係となり、パツキング4の表裏いずれかの面は密封作用を呈して流体の漏洩する憂いがない、という作用効果を全く期待しえないことは明らかである。かように、本件物件は、本件実用新案の要部であるバルブ柄、及び接手部材の外筒に螺着された筒管の内側に鍔縁を設ける、という機構を欠如し、その作用効果においても、前記のとおり、差異があるから、本件実用新案の技術的範囲に属するものとはいいえない。

原告は、この点に関し、バルブがバルブ柄を有すること及び鍔縁を接手部材の外筒に螺着した筒管の内側に設け〓〓とは、本件実用新案の要部ではなく附加的構造に過ぎない旨主張するが、右主張の採用し難いことは、前説示のところから明らかであろう。

(むすび)

五 以上の説示のとおり、被告の製品は、本件実用新案の技術的範囲に属するものということはできないから、これが技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴請求は、進んで他の点について判断するまでもなく、理由がないものといわざるをえない。

よつて、原告の本訴請求は、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり、判決する。(裁判長裁判官三宅正雄 裁判官太田夏生 荒木恒平)

特許庁 実用新案公報

四五七五七七

実用新案出願公告

昭三一―七四六六

管 接 手

図面の略解(略)

実用新案の性質、作用及効果の要領(略)

登録請求の範囲

図面に示す如く一方の接手部材1の内部に撥条3にて支持せしめて扁平なるバルブ柄14を有するバルブ5を収納しバルブ柄の貫通孔を穿てるパツキング4を当て部材1の外筒に筒管2を螺着し筒管2内側の鍔縁16にてパツキング4を押へ内側面に傾斜面より成る凹溝11を有する鞘管9を撥条12を介在させて摺動自在に備へ鞘管9の凹溝11とブラツグ7に設けた凹溝8との間に鋼球10を出入し得べく挾持させた管接手の構造。

(イ)号図面の説明書

これは液体、圧縮空気などを流通させ

る導管の接手である。第一図は一方の部材でブラツグを受部となつており、第二図は他方の部材でブラツグ部となつている。

一方の部材であるブラツグ受体1の両端開口した空洞のほぼ中央には傾斜面のあるバルブ座16が一体に突出形成してあり、その一端開口(第一図にあつては右端開口)に近くその一円周上に適当個数の孔が穿孔されて、そこに鋼球10が嵌装してあり、またこの開口に近い外周面は稍その外径を小さくなるよう切削の上、ここに常時ブラツグ受体1の長手方向に伸長しようとしている発条12を捲装し、その上から内面に隆起部11を一体に突出形成した鞘管9を嵌装し、なおこの鞘管9はブラツグ受体1の右端開口の外周縁に浅くほつた環状溝に嵌装のリング18により、たとえ発条12の伸長押圧力をうけてもブラツグ受体1から逸脱しないようにしてあり、前述の鋼球10は鞘管9の内面隆起11により第一図にみるように空洞内にむけ押圧されている。

ブラツグ受体1のバルブ座16より左方の空洞内にはゴムパツキング4を円錘形をした先端の根部に嵌着したバルブ5が収納されているがこのバルブ5はその先端を空洞内の小欠所に陥入させた板発条17で支えると共に之が周面に捲装した発条により、第一図において常時右方えと押圧されており、従つて図示の状態ではゴムパツキング4はバルブ座16の傾斜面に圧接している。

次に他の部材である7は(第二図参照)ブラツグ体を形成しており、その外周面のほぼ中央に近いところは前述のブラツグ受体1の鋼球10が陥合する凹構8が切削形成してあり、また両端開口した空洞内には前述のブラツグ受体1に収納してあるバルブ5とその構成を均しくするバルブ5が収納してある。

すなわちその先端を空洞内の小欠所に係合した板発条17で支持されかつその外周面に常時ブラツグ体7の長手方向に伸長しようとしている発条により先端円錘部の根部に嵌着のゴムパツキング4を、ブラツグ体7の一端開口(第一図にあつては左端開口)の傾斜面に強く圧接している。

発条12の力に抗して鞘管9を第一図においてブラツグ受体1の長手方向に沿い左方えと押しやるときは、鞘管9の隆起部11は鋼球10を空洞内にむけ押圧するのを止めるので、ブラツグ体7をブラツグ受体1中に挿入することが出来、バルブ5、5の先端円錘部は互いに衝合するので茲に両バルブはその発条3、3の力に抗して後退し、ゴムバルブ4、4、はバルブ座16、19から夫々離間するので流体の流通路が開かれる。

なお鞘管9から手を離せば第一図の実線図示の状態に帰るから鋼球10はブラツグ体7の凹構8に陥入して、普通の外力ではこの管接触が外れるということがない。

しかして管の接手を外そうとするには、鞘管9をスプリング12の力に抗してブラツグ受体1の長手方向に沿い第一図において左方えと押しやれば、バルブ5、5の発条3、3の伸長力によりブラツグ体7はブラツグ受体1の外えと飛び出し、この際流体の通路はバルブ座16、19に対するゴムパツキング4、4の強圧接により閉ざされる。     以上

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